「太陽は動かない」説明されないカッコよさ

WOWOWオリジナルドラマ「太陽は動かない」をみています。

テレビで映画の予告をみて面白そうだなと思っていたところ、映画とドラマの両方が同時に制作されていて、映画は公開延期になったものの、ドラマのほうはYoutubeで1話無料配信とのこと。それを見てから、すっかりハマってしまいました。

 

簡単にいうと、秘密組織のエージェントである主人公が、組織からの命令をうけて事件解明にむけて動くスパイアクション、といったところでしょうか。

「スパイアクション」というと、話のトーンからいって陽でいうなら「ミッッション・インポッシブル」、陰でいうなら「ジェイソン・ボーン」シリーズという感じだと思うのですが、このドラマは間違いなく陰のほうですね。事件にからんでくる政治家や大国の人たちも、暗闇のなかで蠢くような雰囲気で、全体的に湿度高めです。なにが陰と陽の雰囲気をきめているかというと、主人公が好んでスパイ業をやっているかどうか、ということだと思うのですが、そいういう意味では「太陽は動かない」の主人公(とその仲間たち)はたぶん「やめたいが仕方なく」という感じで、なぜ「仕方なく」なのか?という部分が、この話の特異な設定に関わってきます。

 

そんな陰のスパイ物にハマった理由なんですが、まずはドラマ全体の雰囲気がよく整えられていて、質感がすごい。出てくる人たちが巧みで、ポリティカル・サスペンス+胸の起爆装置、というミスマッチな設定にリアリティーが出ているし(車椅子の佐藤浩市が特に!)、画面の陰影から最後のKing Gnuの曲まで、艶っぽい感じの統一感が素晴らしい。

あともうひとつ。第一話、会話の細かい部分が説明されずに物語が進んでいく場面がよくあるんですが、これが気持ちいい。今後明かされるであろう設定に触れたセリフ、漫画でよくあったりしますが、重要な単語が太字になってルビをふられたりすることもなく(ジャンプなんかでよくありますよね)、淡々と会話が続いていく。それが快感で、第一話はこれにハマりました。

始めのほうで、主人公のもとに組織から新人が送りこまれてくるのですが、そのふたりの会話

「香港の山下さんが言ってました」

「山下か」

「鷹野は新人の面倒なんかみないぞって」

?山下って誰?と考えている間もなく、会話はこれから二人が関わっていく事件の内容に移っていく。

かわって第一話のヤマ場、爆弾の起爆装置解除の場面。緊張から汗だくで手も震える新人に対して、主人公が唐突に話しかける。

「せいりょうばくふには行ったか?」

「せいりょう爆破!?」

「ナラン島の渓谷沿いにいったところにある」

「ああ、あの滝のことですか」

あと数十秒で爆弾が爆発するというのに、頭のなかで漢字変換もままならない滝や島(と思われる)の名前が出てくるのですが、その滝やら島について差し込まれるイメージもなく、緊張感をあおるような曲も変わらず流れるまま。見ているこちら側としては慌ててしまうのですが、そのことで、逆に焦っている新人の気持ちとうまくシンクロできる。カッコイイ場面でした。

 

いろいろ調べると、ドラマと同時に公開されるはずだった映画では、主人公たちの細かい設定が語られるようです。映画とドラマの両方見ることを想定して説明少なめ?吉田修一の原作を知っている、ということが前提?いや、そうではなく、あの説明のなさは狙ったものだと思うんです。訳知り顔の人たちのなかに放り込まれる、快感。ドラマの導入として最高でした。

 

この「太陽は動かない」、なんと3話まで無料配信が決まったようです。太っ腹ですね!私はWOWOWに入ってしまいましたが、もう毎週日曜10時が待ちきれません。

このコロナ禍のなか、毎週ドキドキできる新しいコンテンツがあるなんて、素晴らしい。映画の公開日も、早く決まってほしい!